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幼児教育として再評価される「わらべうた」の役割と意義

幼児教育として再評価される「わらべうた」の役割と意義

日本に古くから伝わるわらべうた。「かごめかごめ」や「はないちもんめ」など、日本には数百種類ものわらべうたが(おそらく平安時代よりも昔からずっと)脈々と子どもの間で歌い継がれています。

このわらべうたを幼児教育ひいては子育てのなかでは大切な役割を担っているものとして、再評価する声があります。この記事ではわらべうたと幼児教育との関係性や、その文化的な意義についてご紹介をいたします。

日本の「わらべうた」と欧米発祥の音楽教育「リトミック」の共通性

わらべうたと一般的な歌とでは、何が違うのでしょうか。

それは、「子どもの遊び」が歌とセットになっているか否かです。たとえば「はないちもんめ」や「おちゃらかほい」は、複数人で協力しなければできない動作(遊び)を伴って歌います。

「あんたがたどこさ ひごさ」の歌はひとりでもうたえますが、やはり鞠つき(ゴムボールを地面にバウンドさせて足をくぐらせる)の身体的動作を伴います。

また、お母さんやお父さんが「ねんねんころりよ」を歌いながら赤ちゃんを寝かしつけるときには、赤ちゃんを抱きかかえてゆっくりと揺らす動作が含まれています。

このように、歌と動きとを組み合わせて、子ども同士で遊ばせたり、運動をさせたり、あるいは親と子とでコミュニケーションを取る方法を幼児教育の世界では「リトミック」と言います。

リトミックはスイスの音楽家エミール・ジャック・ダルクローズによって提唱された音楽教育法で、欧米・米国を中心に、幼児教育の方法論として広まりました。

音楽を使ってリズム良く身体を動かすことで、音感・リズム感・情緒・言葉や数の感覚・集団行動など、子どもの幅広い能力を総合的に高めるのがリトミックです。感受性や自立心を育むために「音楽」を活用するのはとても効果的とされます。幼児期の子どもの習い事としても、リトミック教室(音楽・ダンス教室)の人気は年々高まっています。

さて、ヨーロッパでは20世紀から広まり始めたリトミック。何やら最新式で難しい幼児教育手法に思われますが、これはまさしく「わらべうた」そのものです。

わらべうたには、下記の7つの役割があります。なかにはわらべうた特有のものもありますが、基本的にはリトミック教育と同じような働きを持ちます。

1.親と子のコミュニケーションを育む

(子守唄の「ねんねんころり」やくぐり遊びの「なべなべそこぬけ」など、親と子の触れ合う機会が得られる)

2.子どもに言葉や数をおしえる

(数え歌の「いちご にんじん さんしょ しいたけ」など、楽しく遊びながら言葉や数え方を覚えられる)

3.運動能力やリズム感覚を高める

(リズムを取りながら乳児の歩行を助ける「あんよはじょうず」や手遊びの「アルプス一万尺」「おちゃらか」など)

4.子ども同士での遊び、集団行動の決まりを身に付ける

(じゃんけんをするときの「ちょっとぱらさん」や「だるまさんがころんだ」の遊び、組に分かれて歌問答をする「はないちもんめ」など)

5.季節行事や日本の自然観を教える

(お正月の「たこたこあがれ」や秋の「ほたるこい」の歌など)

6.その地域ならではの文化や方言を教える

(熊本県の「あんたがたどこさ 肥後さ 肥後どこさ」や長崎県の「でんでらりゅうば でてくるばってん」など)

7.日常生活のなかで歌を活用する

(怪我をしたときの「いたいのいたいのとんでけ」、約束事をするときの「ゆびきりげんまん」、何かを選ぶときの「天の神さまの言うとおり」など)

このように、わらべうたは子どもの成長と切っては切り離せない関係にあることがわかります。筆者の幼少時代を振り返ってみても、親が寝かしつけるときに子守唄を歌って背中をさすってくれた記憶が、歌のフレーズと一緒に今でも鮮明に残っています。

わらべうたに限らず、童謡や唱歌、あるいはポップソングでも構わないので、子育てのときには「歌」を取り入れてみると良いかもしれません。

文化継承としてのわらべうた 「童謡」や「唱歌」とは何が違うの?

厳密に定義するならば、子どものうたう歌は次の三種類に分けられます。

・唱歌

・童謡

・わらべうた

このうち唱歌と童謡は、「大人が子どものためにつくった歌」です。

唱歌というのは第二次世界大戦以前の尋常小学校にあった教科のひとつで、明治初期に政府が、子どもの教育のためにと作らせた音楽です。たとえば童謡として有名な「でんでんむしむしかたつむり」は、作詞作曲ともに文部省唱歌となっており、文部省が学校教育の一環として作った歌です。

「仰げば尊し」「赤とんぼ」「一番星見つけた」「はとぽっぽ」「桃太郎」など、現代でも音楽の教科書に載っているものが多いですが、これらはすべて明治時代に政府が作った唱歌とされます。

一方で、童謡というのは、音楽家(詩人・作曲家)が独自に子どものために作った歌です。大正時代に、国家の唱歌教育への批判と対抗として、児童文学・童謡の普及運動が活発化しました。

大正時代にはたくさんの童謡が生まれました。たとえば「あめふり(あめあめふれふれ)」は大正14年に北原白秋が作詞し、中山晋平が作曲した歌です。同じく北原白秋の作詞した童謡では「ゆりかごのうた」、他には野口雨情の作詞した「七つの子」「しゃぼん玉」は今でも有名ですね。

このように、国家や詩人、作曲家など、大人が子どものためにと作ったのが唱歌や童謡です。では、唱歌とも童謡とも違う「わらべうた」とは何なのでしょうか。

音楽評論家である町田嘉章氏、民謡・歌謡研究者である浅野建二氏の著作によると、わらべうたには次の2点の特徴があるそうです。

1.子ども同士の集団生活から自然発生的に生まれた唄で、それが長い年月の間に洗練され、淘汰され、今日まで伝承されて来たもの。

2.発生の時代も、作詞・作曲者も明らかでないが、すべて美しい曲節を遺存し、現在、わらべうたとして比較的,分布圏の広いもの。

(引用:町田嘉章、浅野建二・編「わらべうた―日本の伝承童謡」岩波文庫 1984年)

簡単に言えば、わらべうたは生活のなかで子どもから子どもへ、あるいは大人から子どもへと歌い継がれてきた(口承された)歌であり、いつ誰がつくったものなのかは謎に包まれています。

知名度の高い「はないちもんめ」や「かごめかごめ」もやはり、作者・成立時期ともに不明とされるわらべうたです。

わらべうたの面白いところは、住んでいる地域や時代の移り変わりによって、歌詞の内容や曲調に変化が見られることです。たとえば「なべなべそこぬけ」の歌は、東京と大阪とでは音階が異なります。

また、京都の通り名の唄(まる たけ えびす おし おいけ)のように、その地域に根付くその土地ならではのわらべうたはたくさんあります。ちなみに上に書いた京都の通り名の唄では、丸太町通り・竹屋町通り・夷川通りなど、京都の道の名前をひととおり覚えることができます。

わらべうたは、子どもの成長を促すだけでなく、文化を次の世代に伝承する力を秘めています。それは例えば価値観であったり、生活様式であったり、生き物や自然との接し方であったり。(民俗学の世界では、わらべうたが当時の世界観を知るための重要な資料となるそうです)

子どもから子どもへと歌い継がれ、時代とともに変化するわらべうた。今なお人々の心のなかに根付く音楽として、これからも大切にしていきたいですね。

最後に、本記事の執筆には下記の文献を参考にしました。書籍のなかではわらべうたの実例(歌詞と遊び方)が多数紹介されており、ご両親の方にはもちろん、幼児教育に携わるすべての方におすすめしたい書籍です。

・「うたおう あそぼう わらべうた」木村はるみ・著/雲母書房

・「わらべうたですくすく子育て」たかぎとしこ・著/明治図書出版

・「心育てのわらべうた―乳児から小学生まで年齢別指導・教材集」佐藤志美子・著/ひとなる書房