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幼児期の「ごっこ遊び」が心と体を成長させる理由

幼児期の「ごっこ遊び」が心と体を成長させる理由

 

子どもの頃にごっこ遊びをした経験は、誰にでもあることでしょう。「お医者さんごっこ」「おままごと」「レストランごっこ」など、ごっこ遊びは子どもの数だけ種類があります。

よくよく考えてみると、ごっこ遊びは非常に高度な遊びです。たった3歳や4歳の子どもが「大人の職業」を模倣して演じる。それも石っころや木の棒など身近にある材料を「現実の道具」に見立てて、劇中に用いるわけです。

ごっこ遊びが幼児の成長に欠かせない役割を持っている事実は、発達心理学の世界では古くから知られていました。(1926年にヴィゴツキーという学者が書いた『教育心理学』の本に始まります) 

この記事では、幼児期におけるごっこ遊びがどうして大切なのかについてご紹介いたします。

 

ごっこ遊びと「心の理論」

 

ごっこ遊びは「心の理論」の発達に欠かせない遊びであるとされます。心の理論とは、簡単に言えば他者の気持ちを推し量る能力、心を読む力のことです。 

例えば子どもが「お医者さんごっこ」をするケースを考えてみましょう。患者役が泣きまねをして診察室に行くと、医者役が「どうしたの? おなかがいたいんですか?」といった台詞を発します。 

このとき、医者役の子は「泣いている=おなかが痛いのかもしれない」と相手の心情を予測して、行動をします。そしてさらに「これは真似ごっこだから、本当におなかが痛いわけではない」と現実と虚構の違いを認識し、理解しています。 

上のような他者の心を読み取る能力すなわち「心の理論」は、驚くべきことに子どもが2歳になる頃にはすでに芽生え始めるそうです。したがってごっこ遊びは子どもが2歳にあがる頃には自然とできるようになるのですが、子どもが嘘をつく能力を身につけるのも同じくこの時期とされます。

トロント大学の心理学者カン・リー教授は、カードを用いた実験を通して、子どもがいつ頃から嘘をつき始めるかを確かめました。その結果、「幼い子どもは嘘をつかない」の定説を覆す結果が得られたのです。実験では、2歳児の30%、3歳児の50%、そして4歳児の80%が嘘をつきました。

嘘をつくのは良くないことではと思われるかもしれませんが、カン・リー博士は(自分の子どもが嘘をつき始めたら)成長を祝福してくださいと講演で話しています。(※1) 

なぜならば、他者の心を推測することができなければ、決して嘘はつけないからです。例えばお母さんが見ていない隙に、子どもがお皿にあったピーマンをどこかへ隠してしまったとします。お母さんが戻ってくると、子どもは「ピーマン食べたよ」とケロッと嘘をつきます。

このとき「自分はピーマンを食べていないけれど、お母さんはその事実を知らない。だから自分はピーマンを食べた風に装ってみせることができる」といったところまで思考ができて初めて、嘘がつけます。

カン・リー博士はさらに、嘘は「自制心」が発達した証拠であるとも話しています。顔の表情やしぐさをうまくコントロールして、さらに自分の思っていることと正反対の発話をすることで、嘘が成り立つからです。

お気づきの通り、嘘をつくことと、ごっこ遊びをすること。この2つは同じ能力を必要とします。ごっこ遊びを通じて、子どもは他人の気持ちを予測するスキルを身につけ、さらには自制心を高めていくのです。

幼児期のうちに語学や算数を教えることは悪いことではありませんが、「心の理論」の発達には遊びが必要です。子どもにとって、ごっこ遊びは成長のための素晴らしい体験となることでしょう。

※カン・リー: 子どもの嘘は見抜けるか?(TED)

【日本語での解説付きページです】https://www.ted.com/talks/kang_lee_can_you_really_tell_if_a_kid_is_lying?utm_source=twitter.com&utm_medium=social&utm_campaign=tedspread 

ごっこ遊びと世界の広がり 

さて、ここまではごっこ遊びが「子どもの他者の心を理解する気持ち」を育むことをご紹介しました。ごっこ遊びには、もうひとつ、重要な働きがあります。 

それは、世界を知り、広げることです。 

例えばジブリ映画の「となりのトトロ」で、主人公のメイ(4歳)は探検ごっこをすることで、秘密の抜け道やトトロの住処、大きなクスノキを発見しました。同じく「崖の上のポニョ」において、宗介(5歳)は海から打ち上げられた空き瓶のなかに魚(ポニョ)がいることに気づきます。

もちろん現実世界でトトロやポニョに出会うことは(おそらく)ないのかもしれませんが、挙げた2つの映画作品は、幼児の持つ特性を大変うまく描いています。 

すなわち、世界に対する飽くなき好奇心を幼児は持っています。その好奇心を満たす体験こそが、成長の鍵となるのです。 

もうひとつ例を挙げましょう。子ども時代に秘密基地遊びをされた方は多いと思いますが、これもひとつのごっこ遊びです。

秘密基地を作るために、雑木林や川辺を探索し、落ち葉や木の枝を集めてきて基地の材料とする。その自然の中での遊びには、好奇心を満たす体験があり、世界に対する気づきが生まれます。 

発達心理学の研究者である河崎道夫氏は、著書のなかで次のように述べています。

『ごっこ遊びでも鬼ごっこや身体運動的遊びでも、自然を含む屋外の対象世界でこそ自由で開放的な遊び、おもしろい遊びが展開される。そして自由の中に置かれたときに、可能性を解放された子どもの姿がよくあらわれる。』

(引用:河崎道夫『ごっこ遊び―自然・自我・保育実践』ひとなる書房 p.109) 

本書のなかでは「対象世界」という言葉がたびたび出てきます。難しい言葉の概念なのですが、端的に言うならば子どもの周りにある実際の世界を指します。具体的に、おままごとをするときに、砂場の土でお団子を作って、ジャングルジムを家の代わりとするのであれば、そのモノの置かれた環境(=公園)が子どもにとっての対象世界となります。 

子どもたちは対象世界での遊びから、数多くの気づきを得ます。それは例えば泥団子の上手な作り方であったり、ブランコを速く漕ぐ方法であったり、公園に棲まう昆虫や野草の知識であったりするかもしれません。

対象世界を広げてゆくことにより、子どもはさらに多くの知識と、好奇心と、想像力とを育んでいくわけです。

まとめると、ごっこ遊びには以下の2つの働きがあるといえます。

・他者との関係性を深め、広げる(心の理論)

・世界との関係性を深め、広げる(対象世界)

子どもたちのごっこ遊びひとつを題材としてみても、教育心理学・発達心理学の研究領域の奥深さには驚かされますね。最後に、当記事の参考文献をご紹介いたします。

・河崎道夫『ごっこ遊び―自然・自我・保育実践』ひとなる書房

・今井和子『なぜ ごっこ遊び?―幼児の自己世界のめばえとイメージの育ち』フレーベル館

・神谷栄司『ごっこ遊び・劇遊び・子どもの創造―保育における経験と表現の世界』法政出版

・ヴィゴツキー(著)、神谷栄司(翻訳)『ごっこ遊びの世界―虚構場面の創造と乳幼児の発達』法政出版 

4冊とも発達心理学について深く学べる専門書であり、内容は易しくないものの、幼児保育のお仕事に携わる方にはおすすめしたい書籍です。