幼児期の子育てにおいてとくに気をつけたいのが、事故防止のための安全対策です。というのも1~9歳の乳児期・幼児期・児童期のそれぞれにおいて「不慮の事故」が死因の第二位を占めているからです。
※典拠:厚生労働省『人口動態調査』平成27年
命にかかわる不慮の事故で最も多いのが、交通事故です。次いで窒息、溺水、転倒、火事と続きます。
幼児期に入ると子どもは活発に動き回り、危険をかえりみず(好奇心旺盛に)何にでも挑戦してしまいます。もちろんそれは成長のためには好ましいことなのですが、私たち大人はそのなかで、事故発生リスクを最小限にするための努力をしなければなりません。
この記事では事故防止学の観点から、私たちがどのように子どもの安全対策を心がければ良いのかについて考えていきましょう。
「楽観バイアス」が引き起こす事故
人間は、ある物事に対して、その価値を過大評価・過小評価してしまう性質を持っています。これは「認知バイアス」と呼ばれるもので、社会心理学や行動経済学の分野で研究が進んでいます。
例えば、普段なら買わないような価格で売られている商品なのに「50%OFF」「期間限定 大特価!」の表示を見て、つい手が伸びてしまった経験はありませんか?
モノ自体の値段よりも、それに付加する情報の方を過大評価し、意思決定が引きずられてしまう。これはアンカリング効果として知られる、価値判断の歪みのひとつです。私たちは普段の生活のなかで知らず知らずのうちに、認知バイアスの影響を受けています。
認知バイアス、すなわち子どもの不慮の事故は往々にして「リスクを過小評価すること」によって起こります。
近所を運転するだけだからチャイルドシートはしなくても大丈夫。他の子もしてないから、ヘルメットを着用しないで自転車に乗せても大丈夫。浅くしかお湯を張っていないから、まさか少し目を離したくらいでお風呂に溺れることはないだろう。入浴剤を飴と間違えることなんてないはず。ベランダの柵は子どもには登れないはず。
そういった「万が一の危険があることは理解しているが、その万が一はまさか自分の身には降りかからないだろう」という偽りの安心感を持って判断してしまう性質を「楽観バイアス」と呼びます。
しかしほとんどの場合、不慮の事故は「万が一」が実際に起こった結果であることを忘れてはいけません。幼児はたったの10cmの水深で溺水することもあれば、カプセルトイの容器を飲み込んで窒息することだってあります。
まずは楽観バイアスを捨てて、「万が一」が起こりうるものとして事故防止に取り組むことが大切です。
事故を防ぐための3段階のステップ
子どもの安全対策は、次の3つのステップを踏んで行う必要があります。優先順位の高いものから並べています。
1.事故の発生そのものを防ぐ(危険の排除)
2.事故発生時の危険を減らす(危険の低減)
3.事故が起きる可能性を共有する(危険の周知)
このステップは子どもの事故防止に限らず、あらゆる分野に幅広く応用できる考え方です。
第一に、環境から危険を取り除き、事故そのものが起こらないようにする。
第二に、危険を完全に排除できない場合には、万が一の事故時の危険度を少しでも下げられるようにする。
第三に、それでも危険が残ってしまうときには、周囲の大人と情報を共有し、子どもが危険な環境に近づかないように注意する。
これらの三段階をどのように当てはめていけば良いのか、具体的に見ていきましょう。
ステップ1 環境から危険を取り除く
とくに致死性の高い事故として気をつけたいのが「溺水や誤嚥による窒息」です。窒息は発見が遅れれば命を失いかねず、助かったとしても重度障害を残すケースが多いです。
したがって溺水や誤嚥は(保護者・保育者が子どもをしっかり見張るといった)注意喚起による事故対策では不十分です。事故そのものが発生しないように、環境から危険を取り除く必要があります。
溺水対策としては、まず家のなかに水場を置かないようにします。乳幼児はたったの10cm程度の水深でも溺水する可能性があります。
・浴槽の残り湯は必ず抜く
・浴室の扉を閉めておく
・入浴中に目を離さない、フタに座らせない
・水の入ったバケツや洗面器を放置しない
・トイレの貯水タンク等はフタを子どもが取り外せないようにしておく
といった対策をおこない、溺水の可能性のあるものを環境から取り除きます。
完全に取り除けない場合でも、たとえば「浴室・浴槽に滑り止めマットを敷く」等の対策を取ることで事故の発生率を大きく下げることができます。
保育園や幼稚園でプール遊びをする際には、安全対策が適切におこなわれているかも保護者としてはチェックしておきたいところです。
誤嚥対策としては、喉に詰まらせる可能性のあるもの、毒性のあるものを子どもの手の届かない場所に保管しておくことが大切です。
ジュースと間違えやすい洗剤やお酒、お菓子と間違えやすい入浴剤等は、鍵付きの引き出しや高い位置にある棚のなかにしまっておきます。
このように家の中からできうる限り危険を取り除くのが、初めに取り組みたい事故防止です。公園に遊びに行くときでも、危ない遊具があれば自治体に連絡をして撤去や修理を依頼するなど「どうすればより安全な環境が作れるか」を意識してみましょう。
ステップ2 事故時の危険度を下げる
とはいえ、環境からすべての危険を除外することは不可能です。指をはさんで危ないからといって家からドアを取り外すわけにはいけませんし、転倒の恐れがあるからといって階段をなくすわけにもいきません。
そこで次に重要となってくるのは「事故時の危険度を下げる」視点での安全対策です。
例えばドアや階段の角にクッション材を取り付けておけば、仮に指をはさんでしまっても(あるいは転倒してしまっても)大けがは避けられます。
子どものおもちゃは、万が一口に入れてしまっても安全な素材・形状でできている製品を選ぶようにしておけば、誤嚥事故の危険度を大きく下げられます。(玩具安全基準である「STマーク」がひとつの判断材料となります)
子どもを車に乗せるときのチャイルドシートや、自転車のヘルメットも「万が一の事故が起こったときに危険を軽減するもの」の代表格といえます。
「安全対策をしているから事故は起こらない」と考えるのではなく、「万が一の事故が起きたときの危険を少しでも減らそう」と考えるのが事故防止の基本です。
ステップ3 事故の可能性を周囲と共有する
ステップ1(環境から事故発生要因を除外する)、ステップ2(環境による事故の危険性を低減させる)の段階を経て、それでも危険が残ってしまうときに大切なのは、周囲と情報を共有することです。
たとえば交通量が多いのに信号のない横断歩道があり、通園時に通らなければいけないとき、横断歩道の通行時に注意しなければならないことを子どもに教え、保護者や周囲の大人が見守りをするようにします。
このときも、3段階のステップで安全対策ができないかを考えます。
(1)環境そのものを安全にできないか(行政に歩道橋設置の要望を出す)
(2)事故の発生確率・危険度を下げられないか(子どもに明るく目立つ服を着せる/事故防止用の蛍光反射材を取り付ける)
(3)周囲との情報共有(子どもに道路横断時の危険を教える/自治会・町内会・PTAで見守り運動をする)
これらはどれかひとつだけを行えば十分というわけでなく、3方面の視点からそれぞれ安全対策をおこなうのが理想的です。
保育園や小学校、あるいはご家庭で子どもの安全対策に取り組まれる際は、ぜひこの記事でご紹介した3つのステップを意識してみてください。
【公開日】2018/08/20
【最終更新日】2018/08/20